第1回 2002年7月29日

 本州最南端の串本町に住むようになってしばらく経ってのこと。休日はすることもなく、近くの太地くじら博物館に通うことぐらいが唯一の楽しみになってました。買い物といえば、新宮市にあるジャスコ。これがだいたい車で45分くらいかかるんです。この串本から新宮までの途中にホエールウォッチング乗り場という看板があって、ずっと気になってました。気にはなってたものの一人で行く気にもなれずいつも通り過ぎるだけだった気になる看板。同じ職場で働く人たちも、意外というかホエールウォッチングって行ったことないんです。誰一人として…
 たまたま仕事仲間3人で、一度挑戦してみようということになって、その看板の主南紀マリンレジャーサービスのホエールウォッチングに参加することになりました。HPによると前日までマッコウクジラは発見されています。他の二人はまあそれほど興味もなく、僕だけが頭の中がくじらでいっぱいになっている状態、その日は朝早いこともあったけど興奮でほとんど眠れませんでした。

 この日は、波が高く、船が揺れに揺れて、4時間バイキングに乗りっぱなしみたいな状態でした。その時の船長は東船長。前日の寝不足状態の中、必死に鯨を探します。なんてったって何としても鯨が見たいんですから。しばらくしてこの大荒れの海で、ウォッチング前には元気ではしゃぎまわってた子供たちが1時間後には船べりで無口になっています。船の上は船酔い客の雑魚寝だらけ。探せど、探せど、マッコウクジラは発見できず、トビウオと海鳥だけしか発見できませんでした。おいおい、けっこうお金払ったのに、トビウオだけかよ、他の二人に悪いじゃないかとちょっと怒ったりして。悪いことにはその日コンタクトレンズを片方失くしてしまって片目だけで必死に鯨を探したにも関わらず、鯨は姿を見せませんでした。こういう努力をしたんだから報ってくれよという勝手な希望は自然を前にしては簡単にふっとんでしまうんです。僕らはあまりにも人工のアトラクションに慣れすぎていてお金を払ったんだからと傲慢になってしまう。けど自然はそうはいかない。大海原にくらべれば、おっきな鯨も小さいんです。僕らはそれよりもっと小さい存在です。自然はこっちの都合よくはいかないものだと改めて感じました。

 はじめてのウォッチングでの発見は、トビウオがあんなに長く飛ぶ魚だということです。飛行時間を数えていたらゆうに指折り1分を越えるものがいるのに驚きました。魚というよりも昆虫のようです。

第2回 2002年8月5日

那智勝浦 天気よし 波なし 絶好のウォッチング日和。

 この日は前回誘った仲間には内緒でこっそりと行ってきました。この間のウォッチングが散々な結果だったので、誘いづらくて・・・。それでも僕は鯨が見たい。本当に鯨なるものはこの船で沖に出れば見られるものなのかどうか?

 この日もなかなか発見できませんでした。海の状態はいいんだけど、発見情報がなかなか入らない。3時間くらい探し回って、ようやくオガワコマッコウという、背中のシルエットがマッコウクジラに似ているという小さなクジラを発見。波間にぽっかり浮かびあがっているようです。はじめてのくじら(イルカ含む)はオガワコマッコウでした。このオガワコッマコウはすぐに潜水してしまって、このクジラは一旦潜水するとなかなか浮上しないということで、次のウォッチングへ。
 すると今度はツキンボがハナゴンドウの漁をしている情報が入りそのポイントに向かいます。。
 ハナゴンドウの群れです。博物館で見るハナゴンドウは、のんびりしてるのですが、波間に見るハナゴンドウは華麗なジャンプを繰り返し、右から左から跳び出してきます。体の白い模様もはっきり見え、彼らの視線もいたるところで感じます。海で見るイルカは爽快です。これほどまで自由に跳びまわるイルカはやっぱり海でしか味わえません。この日、マッコウクジラは見れず、小さな鯨(イルカ)たちに出会えただけですが、それでも何も見なかった前回の悔しさがふっとび、この上ない感動をもらえました。前回と同じ東船長に感謝のことばをかけて港をあとにしました。

第3回 第4回2002年9月9日
那智勝浦

今度こそ、マッコウを!!ハナゴンドウとオガワコマッコウは見た。けどそれは大きくても3メートルくらいのもので10メートルを超える鯨にはまだあえていない。是非ともこの目で確かめる。決意を新たに南紀マリンに乗り込みます。
 この日、朝から風が出てしまって、ウォッチングは中止になりました。お客さんはとても悔しがり、なかには悪態をつく人も。船長は港のすぐ近くだけ、船を出して周ってくれました。お客さんの中に、神戸から来たという二人組みの70歳代のおばあさんがいて、早朝からどこにも行けないということで困っていました。

 私が串本から来ているというので、船長から勝浦の漁港でも見せてやってくれないかと頼まれ、私も帰り道だからというので引き受けました。じゃあ、さっそくと車を出そうとすると、おばあさんたちはNHKの朝のドラマを見てからと、ウォッチングの事務所に座ってテレビを見てました。テレビを見終え、勝浦の漁港へ。マグロや、カジキマグロが場内に並べられているなかを二人のおばあさんが感心な顔つきで何か話していました。

 車に戻り、駅に行こうとすると、「それでも残念、この歳じゃ今度来れるかどうかわからない」と嘆いています。しょうがないから、帰り道だから太地に連れていきましょうと二人をクジラの博物館に送ると、「あなたも一緒に来るんでしょ」と呼ばれてしまいました。

 お二人を連れてくじらの博物館に入り、イルカやシャチを見て、だいぶ満足してくれたようです。「良かった」、「こんないいところがあるんですね」と喜んでいただいて、私もほっとしました。

高知県大方町、天気晴れ 凪 絶好のウォッチング日和

 日本には南紀以外にも鯨の見えるところがある。
 小田健治さん
のHP「クジラに逢えたら」を見て、高知県大方町にはるばるやってきました。ここはニタリクジラをウォッチングすることができます。ニタリクジラはひげ鯨でふつう僕らが想像する鯨はこの鯨じゃないでしょうか?世界最大の鯨といえば、ほとんどの人がシロナガスクジラを言えるでしょ。このシロナガスクジラを小さくしたようなかたちの鯨がニタリクジラです。って、実際にシロナガスクジラを見たことはありませんが…。前日まで、ニタリクジラは見えているとのこと。いやがおうにも期待が膨らみます。
 体長12〜3メートルというニタリクジラ、カツオが鰯を追っかけるときに一番いい場所にいて、横から鰯をぱくりと食べてしまう、賢いクジラだと聞きました。大方町の港は静かなとても温かい雰囲気の落ち着く場所で、ウォッチング受付には感動のくじらたちの写真がいっぱい飾られてます。この日は確か、僕とカップル一組だけの乗船。船長さんの名前は忘れましたが、かなりおじいちゃんだったと思います。


 この日絶好のコンディション、それから出航直前に船に乗ってきたクジラに詳しい徳広さん、鬼に金棒でした。にもかかわらず、残念ながらニタリクジラは発見できません。それどころか、イルカもハナゴンドウもまったく見ることができませんでした。
トビウオのみ。
またまた悪夢が…。ついてないときはついてない。これはそんなに簡単に鯨を究めることはできないぞって事でしょうか?この旅は今思い返してもくじらへの衝動の旅であって、お金もないのによくここまで来たなという感じでした。けど新しい発見の地、高知を楽しめたし、これから楽しもうというはじまりの旅になったと思います。南紀でも高知でも鯨には連敗中。
第5回


 この日、
南紀マリンレジャーサービスはホエールウォッチング最終日。懲りずにまたまたチャレンジです。前日二人で予約すると、人数が足りないけど、最終なんでいいよ、との事。にもかかわらず、相方の家でその夜、不幸があり、今更キャンセルというわけにもいかず、この日、一人だけでウォッチングへ。この日は米川船長。

 船長さん「今日は遊んだるよ!」と、朝から伊勢海老や蟹を入れた鍋をごちそうしてもらい、それから、カワイさんという方と三人でウォッチングに出かけました。今日は最終なんで見れても見れなくてもいいやと思いながら水平線を眺めていました。
 カワイさんは船尾でシイラを釣ってます。流木が波間に現れて、巨大なシイラの影を発見したらしく、そこに向かって船をすすめました。

 深い藍色の海に青白くぼんやり浮かんで見えるのが、シイラなどの影です。と、前方にはじめごみだと思っていたのですが背びれが近づいてきます。クジラ館で見ているので、くじらの背びれは区別できるつもりなので、あれははっきり背びれでした。背びれのまわりにかさぶたのような苔のような茶色の肌らしきものがあり、背びれはバンドウイルカよりも少し小さめ、海の色が暗かったので体長がどのくらいなのかわかりません。真っ黒な海に背びれだけ。あっけにとられている僕の目の前をすーっと横切るではありませんか!!

 僕は船長に指を刺して「いる!、いる!」と叫んでいたのですが、船長とカワイさんは、シイラのトローリングに夢中で、僕の声は届かず、そのなぞの生き物は真ん前を横切って消えました。クジラやイルカはブローをするけど、その生き物はそれらしきことをまったくせず、波間に背びれを見せたまま潜水もせず浮上もせず、あれが何だったのかさっぱりわかりません。

 その日、シイラは2匹釣れました。疑似餌に水しぶきを上げてとびかかってくるシイラの姿はなかなか迫力がありました。それから船長は
オキゴンドウを遠くで見つけていたと言ってました。

この謎の鯨がきっかけで小田さんとメールしあうようになりました。鯨の経験豊かな小田さんならもしかしたら知っているのではないかと思って。僕のはじめての「大きな」鯨は何だったのか?僕は確かに「くじら」を見たはず…。はじめての鯨なのに名前もわからないなんて、ひとに何て説明すればいい?

その謎の鯨は今の時点で何かとふと考えます。おそらくニタリクジラだったのではないか?と思います。でもあの泳ぎ方は本当に不思議でした。これからいろいろな鯨をいろいろと見ながら本当にあれは何だったのかと追求していきたいものです。


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