第22回 2003年9月11日 那智勝浦 曇り

 前日、台風14号の影響で空模様はかなり怪しく、出航が危ぶまれました。それでも、一応決定的瞬間を見逃しては絶対に後悔すると思い、南紀マリンレジャーサービスに電話しました。米川さんの娘さん(事務員)が、明日は天気は怪しいけど出航ですと教えてくれました。天気予報は曇りのち雨、しかし、その夜は物凄い雷と豪雨でとても明日出航できるとは考えられませんでした。
 翌日、まだ暗い中、雨は止んでいます。どうやらどんよりとした曇り空のようです。


 宇久井港に着くと、「吉川くん、また、来たんですか?」と米川船長に声をかけられ、ちょっと小恥ずかしい思いをしつつ、今日は出航できるんだなあと感慨深々。今日も米川船長はくじらの説明を熱心にしてくれました。特に、マッコウとシャチを力説していたのが、印象的です。
 このところの勝浦沖は、8月の終わり、シャチの発見情報があったけれども発見場所が遠く船を走らせることができなかった、岸で釣りをしていた人がミンククジラを発見した、ハナゴンドウ900頭近くが海を埋め尽くしていた、バンドウイルカが船を先導して泳いでいた、ハナゴンドウの赤ちゃんと思われる個体が多数見られ、船を近づけると親ハナゴンドウが威嚇行動をとったなどです。
 今日は是非そのハナゴンドウの赤ちゃんを見てみたいな程度に思いつつ出発しました。
最初、西に船を走らせましたが、何も発見できず、反転東に向かいました。ハナゴンドウが数頭見えているといった情報がありました。無線は地元の漁師のひとたちの方言がとびかっていましたが、一件だけ冷静な標準語の無線が入りました。
「米川さん、シャチが見えていますよ」
しゃち…、シャチ?、シャチ!!!
私は思わず、やった!!と思いました。黒潮の上のシャチを見ることが私の夢でしたから。
8マイル先
米川船長:「シャチが見えたあるという情報が入りましたが、こっからだいぶ遠いです。お客さんどうしますか?」
私:「米川さん、行こう!!!」
ここで、引き返しては千年の悔いを残す、どんなことをしても行きたいと興奮気味でした。

捕鯨船:「シャチを捕捉しておきますか?」
米川船長:「お願いします」
米川船長:「お客さん、後ろへ移動してください。今からとばすからね」

捕鯨船は、突きんぼ猟の船とはちがい、大砲を積んでいます。
マゴンドウなどをとるのに、海上にいたのですが、シャチを発見し、これはもちろんとることはできませんが、米川さんのために、シャチを見張っててくれました。
途中、清丸渡船のウォッチング船とハナゴンドウを観察しましたが、米川船長の船、つまり私たちの乗った船だけが、現場に向かいました。
すごい波しぶきと揺れですが、シャチを早く見たいという思いが勝っています。
捕鯨船:「シャチは5分毎にブローしています」
米川船長:「あ、あがったあるね!」
どこ?どこ?
二度ほどそんな声が聞こえましたが、どこにいるのかさっぱりわかりません。

あがった!!!2mはあろうブローが垂直に上がっています。

はじめてみる、黒潮の上のシャチ。オルカライブのは魚を食べてますが、これは正真正銘、ハナゴンドウやオガワコマッコウ、5月にはマッコウの赤ちゃんまで襲った海の王者、シャチなのです。
僕の夢にまで見たしゃちが今こうして目の前で泳いでいる。今日、シャチに会えるなんて想像もしてなかったのに。やってくれるよ、この海は!!
4頭のシャチ。メスが3頭、うち一頭はあきらかに小さく赤ちゃんもしくは子どもでしょう。
堂々たる泳ぎ、かつこちらの裏をかくような動き。
ちょうど餌をとろうとしてるんじゃないかということです。

上の左端。この立派な背びれはオスです。きっと8〜9mはかるくあったと思います。
メスはそれより少し小さく7mくらい、子どもは4〜5mくらいでしょう。
米川船長と見張り台に登って、シャチを目で追っかけ追っかけましたが、黒潮との境で波が立ち、よく揺れました。それでも大きなシャチをこの目にしっかりと焼付けました。

海で泳ぐシャチは、本当に堂々としていて、この大きなオスがこの家族を守って、この大海原で生きているんだなあと改めて感じました。鳥肌が立つほどに感動しました。
もしも昨日、きっと欠航だろうとあきらめていたら、それこそ、悔しい思いをするところでした。


※後日
この日の興奮があまりにも強烈すぎて、大きさをだいぶ誇張してしまったようです。
米川船長の話では、約7メートルくらいだろうということです。
私も太地のくじら博物館のナミちゃんが、6メートルなので、確かにそれよりもかなり大きかったと記憶しています。ただ、その胴回りは野性のそれの方がずっと太いものでした。


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